ナムコ・テイルズスタジオの伊藤正と言います。
今回、演出を担当させていただいたので、やはりここは演出について語ろう、と思ったのですが……
演出という言葉はなんとも掴み所が無く、曖昧な物で、何処から何を話せば? という感じです。
例えば……
「木の下に青年と犬がいます。彼はこれから何をしようとしているでしょう?」
1.「バカやろう」と叫ぶ
2.フレンチカンカンを踊る
3.木によじ登る
4.犬とたわむれる
5.何もしない
6.その他
よくある心理テストの問題です。
わざわざ選択肢になってますが、1〜5番を選ぶ人は僅かで、100人に聞けばおそらく50人は6番の「その他」を選ぶでしょう。また50人が選んだ「その他」という答えは、正確には「50種類の選択」と言えるかも知れません。
で、この人それぞれに持つはずの印象が「一つの印象」となるように誘導していくのが、演出という技法です。
と、物知り顔でエラソーに言っては見たものの、実際ゲームの中でどうこうしようとすると、これがとても難しいのです。
とある雑誌に「ヴェスペリア」が載っており、体験版を紹介した文章に、こう書かれてました。
「主人公の手前を兵士が通り過ぎていくというような3Dならではの演出がさりげなく挿入されている」
うおーっ!! 誉められている!!
そう、まさにこの「さりげなく」がミソなのだ! わかるかぁ、そうかぁ 感激だなー!!
え、 ……まてよ?
さりげないどころか、ガッツリ見られて紹介されているではないか!?
と、いう具合に、意識すれば失敗し、意識しなければ成功し、まるで、「見ると無いけど見ないと在る」の「量子力学」のような、行き着く果ては宇宙の真理か? とさえ思えてくるわけです。
ゲームに限らず、エンターテインメントというものは、いつもこんな不可解なものと付き合いながら生きてるわけで、自信満々で作っておきながら、あとから見ればドン引きしたり、逆にそこまで力を入れていなかった部分が高く評価されている、なんて作品も世の中には少なからず存在します(多分……)。
長くなってきたので、そろそろ〆ます。
今回の「テイルズ オブ ヴェスペリア」においての演出は、「全てが見所」というつもりで作りました。
これをプレイして頂いた方にとって、忘れられない一本になると嬉しいなと思います。 |